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反復着床不成功への治療

反復着床不成功(RIF)とは

胚盤胞を3回移植しても着床しない、または臨床的妊娠が期待できるような着床反応が得られない場合、反復着床不成功として着床検査を行っています。
反復着床不成功の要因は最も頻度の高い 1. 胚性因子(受精卵異常)を筆頭に、2. 子宮因子(子宮・付属器の器質的異常、慢性子宮内膜炎、胚受容能異常)、3. 血液免疫学的異常の3つに大別されます。

1. 胚性因子

胚性因子(受精卵異常)

受精卵異常は主に染色体の数的異常が原因とされており、反復着床不成功の中で最も頻度が高いと考えられています。
染色体検査として着床前診断やスクリーニングを遺伝学的に行うことが生殖医療と生化学的技術の発展に伴って可能になっています。日本産婦人科学会の主導による新しい臨床研究が2019年12月より開始され、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)が当院においても施行できるようになりました。

2. 子宮・付属器因子

子宮因子とは子宮・付属器側の問題であり、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、卵管水腫のような手術で治療が可能ないわゆる 2-1. 器質的異常2-2. 子宮内環境の異常 に大別されます。

2-1. 器質的異常

子宮通水検査、子宮鏡検査、画像診断などを行い、着床障害の原因になる可能性があれば手術を行います。

2-2. 子宮内環境の異常

① 着床時期のズレによって起こる着床能の低下

着床において、子宮の内膜が胚を受け入れる最適な着床時期がありますが、反復着床不成功例では着床時期のズレによって胚を受け入れる準備が整っていない場合があります。その場合、当院では子宮内膜受容能検査(ERA: Endometrial Receptivity Analysis)を行い、移植に最適な着床時期を判断しています。

子宮内膜受容能検査(ERA : Endometrial Receptivity Analysis)とは?

原因不明の反復着床不全ならびに反復流産例に対して行う検査です。
子宮内膜には胚の着床に最も適した時期(Window of Implantation: WOI)があります。このWOIと胚移植の時期がずれてしまうと、子宮内膜が胚を受け入れることが難しくなります。子宮内膜受容能検査(ERA)は、子宮内膜に発現している238種類の着床に関連する遺伝子を解析し、胚移植を行う日の子宮内膜がWOIを呈しているかどうかを調べる検査です。これにより、患者様ご自身のWOIを知ることができ、患者様の子宮環境に適した時期に胚移植を行うことが可能となります。

子宮内膜組織

検査の方法は?
1)子宮内膜組織の採取

子宮内膜が胚の着床に適していると考えられる日に子宮内膜組織を採取します。子宮内膜の採取には子宮内膜細胞・組織診でも用いられている外径約3mmのピペットを使用します。時間は5分程度です。通常、麻酔は行いません。また、子宮頸管が開きにくい方は事前に頸管拡張が必要な場合もあります。

図

2)子宮内膜組織の検査 検査後の流れ

採取した子宮内膜組織は、検査会社へ送付します(Igenomix社)。約3週間で検査結果が得られます。検査結果がWOIの範囲内であれば、再検査は不要です。WOIの範囲外であった場合は、次周期以降に再検査を行う場合があります。

再検査について

検査が適切に行われていても、検体不良によって遺伝子解析が困難な場合は再検査になる可能性があり、一定の確率で再検査になってしまうことがあります。

チャート図

料金について

ホルモン検査、超音波検査料は基本料金に含まれます。お薬を使用する場合は、お薬代が別途加算となります。詳しくはお問い合わせ下さい。

② 慢性子宮内膜炎や子宮内環境異常によって起こる着床能の低下
一般的な慢性子宮内膜炎の診断法

慢性子宮内膜炎の診断にはいくつかの診断法(子宮鏡検査と組織学的検査)があり、当院ではこれらの診断法を組み合わせて総合的に診断を行い、必要に応じて治療を行っています。検査時間は午前中に行います。また注意点として検査周期前後、治療が必要となった場合は治癒するまでは避妊をして頂かなくてはなりません。

子宮鏡検査とは?

子宮鏡検査とは、まずファイバースコープを子宮口から挿入し、同時に生理食塩水を子宮内腔へ流入させ子宮内腔を拡張させ、子宮内腔を観察する検査です。スコープの外径は3.8mmと細く柔らかいので、検査に伴う痛みも軽度で、麻酔も必要もありませんし、日帰りでできる検査となっています。慢性子宮内膜炎だけでなく、着床障害の原因となるような、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫の診断にも有用で、観察時間は約10-15分程度です。

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組織学的検査とは?

子宮鏡検査は検者による主観的評価によるところが大きいため、客観性を担保するために組織学的検査を組み合わせて検査を行っています。通常月経終了後〜排卵期(卵胞期)にカテーテルを使用し、子宮内膜組織を採取します。さらに採取した検体を病理検査に提出し、慢性子宮内膜炎が存在するときに子宮内膜間質部分に出現する形質細胞を確認することで診断を行います。

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慢性子宮内膜炎の治療は?

慢性子宮内膜炎と診断されたら、抗生剤を2週間内服し、次周期に治癒したかどうかの効果判定を行います。ほとんどは初回の内服で治癒しますが、治癒しない場合に、抗生剤を変更しながら内服治療を数周期、要する場合もあります。
また、EMMA/ALICE検査を同時に行う場合は、治療計画が変更となる可能性があります。

先進的な慢性子宮内膜炎の診断法

EMMA:Endometrial Microbiome Metagenomic Analysis
ALICE:Analysis of infectious Chronic Endometritis
この検査は近年開発された遺伝子検査で子宮内環境の状態を確認したいときや子宮内腔に存在する細菌を直接同定したいときなどに行う検査です。

EMMA検査:Endometrial Microbiome Metagenomic Analysisとは?

女性の生殖器内は様々な細菌が存在し、細菌叢を形成しています。特に腟内に存在する乳酸桿菌(ラクトバチルス属の菌)は腟内を酸性化にすることで、外から侵入するウイルスや他の細菌からの感染を防ぐ効果があります。
2015年に米国の研究者らによって子宮内にも乳酸桿菌が存在し、着床時の免疫に影響を与える可能性を指摘されました。さらに2016年には別の研究者らによってその乳酸桿菌のレベルが不妊治療の成績に影響することが報告されました。
EMMA検査では子宮内の細菌叢が胚移植に最適な環境であるかどうかをみることができます。

具体的にはどんなときにするの?

当院では慢性子宮内膜炎の診断は、従来の一般的な診断法(子宮鏡検査と病理検査を組み合わせた診断法)で行っていますが、稀に存在する数周期抗生剤内服しても治癒しない治療困難な慢性子宮内膜炎があり、そのような場合や直接細菌を同定して治療をしたい場合にこの検査を行います。

この検査の解釈は?

注意点として、この検査は細菌を同定するには優れたツールとは言え、検査をした時点で炎症状態があるかどうかは判定できません。つまり存在する細菌は同定できても、検査時に慢性子宮内膜炎が存在するかどうかは分かりません。
下記のグラフはそのスペインのクリニックで体外受精をしている不妊治療患者を対象に子宮内細菌叢を調べ、妊娠の成績にどの程度影響するかを調べたグラフです。
子宮内の乳酸桿菌が減少し、他の非乳酸桿菌群の細菌が上昇すると不妊治療成績が低下します。

グラフ

実際に乳酸桿菌が少ない場合はどうするか?

乳酸桿菌イラスト

乳酸桿菌を腟剤として補充します。乳酸桿菌の腟座薬を移植前周期あるいは移植周期の月経以外の期間に投与することで生殖器内を移植に適した良い環境にすることができます。腟座薬は何種類も存在しますが、当院では下記の腟座薬を採用しています。また黄体ホルモンの腟座薬を使用することがありますが、乳酸桿菌腟坐剤の投与時間をずらすことで併用することも可能です。

乳酸桿菌剤
乳酸桿菌腟剤:inVag(インバグ) 製造会社:IBSS BIOMED社

ALICE検査:Analysis of infectious Chronic Endometritisとは?

慢性子宮内膜炎の原因となりうる細菌を検出する検査です。この検査は一般的な慢性子宮内膜炎の診断法に基づいた治療を行ってもなかなか治療をしても治療が困難な場合、菌を直接同定し存在する細菌に対して絞って治療をしたい時などに有効と考えられます。具体的には下記に示すような細菌が慢性子宮内膜炎を引きおこすことが知られており、それらの細菌をこの検査で検出することができます。

  • エンテロコッカス属
  • 大腸菌や肺炎桿菌
  • ストレプトコッカス属
  • スタフィロコッカス属
  • マイコプラズマ属
  • ウレアプラズマ属
  • クラミジア属
  • ナイセリア属

治療は報告書に基づいて検出された病原菌に対して抗生剤治療を行います。

検査方法は?
ERA検査と同様に黄体期に子宮内膜組織を採取します。詳しくはERA検査の方法は?をご参照ください。

3. 免疫学的異常
受精卵を受け入れる免疫寛容の異常

受精卵が子宮に拒絶されることなく受け入れられるためには、T 細胞を介した正常な免疫応答が必要です。T 細胞はサイトカインIFN-γ を産生し細胞性免疫を誘導する 1 型ヘルパー T 細胞 (Th1 細胞)とサイトカイン IL-4 を産生して液性免疫を誘導する 2 型ヘルパー T 細胞 (Th2 細胞) に分類されます。正常妊娠では、半分が夫由来の受精卵を異物とみなして攻撃する Th1 細胞が減少し、Th2 細胞優位な状態が着床・妊娠継続しやすいことが知られています。逆にTh1 細胞優位な状態は着床しにくいと考えられています。妊娠のためには、女性側の免疫寛容 (半分が夫由来の受精卵に対して免疫的に寛容になる) が必要です。反復着床障害の原因の一つとしてこうした免疫異常が指摘されています。

免疫学的異常に対する治療
タクロリムスという免疫抑制剤を使用します。この薬剤は膠原病 (リウマチなど) や臓器移植後の患者様に使用されるもので、母体の拒絶反応を抑え着床・妊娠の維持を可能にすると考えられています。タクロリムスを内服した状態で妊娠、出産した報告は多数あり、妊娠中にタクロリムスを内服することで、胎児の奇形率は上昇させないという報告もあります。また近年では反復着床不成功や原因不明の不育症患者への使用が報告されています。

参考文献

ERA検査
  • Diaz−Ginemo P et al.Fertil steril.2011
  • Ruiz-Alonso M et al. Fertil steril.2013
  • Diaz−Ginemo P et al.Fertil steril.2013
慢性子宮内膜炎検査
  • Kotaro K et al. Am J Reprod Immunol.2017
  • Cicinelli E et al.Fertil Steril.2010
  • Pierre-Emmanuel Bouet et al.Fertil Sterili.2016
EMMA/ALICE検査
  • Inmaculada M et al.American journal of Obs and Gyne.2016
  • Inmaculada M et al.American journal of Obs and Gyne.2018
免疫学的異常
  • Nakagawa K et al. Am J Reprod Immunol.2015
  • Skorpen G et al. Ann Rheum Dis.2016

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